参.陶芸の基礎知識






陶器の基礎知識。器を見る時に大切な話。

①焼物の正体
皆さんが日頃使っている陶器というのは、簡単に言うと 「土を焼き固めたものに、釉薬という表面装飾を行ったもの。」です。

陶器というのは粘土を使って作ります。粘土は何かって言えば、 岩石が細かくなったもの。石が砂になり、砂が更に細かく風化されて土となり、 細かな細かな粒子になったものが粘土です。要は「非常に細かい粒子の土」です。

生成過程の通り、粘土は、岩石を風化させたもの。ですので、これを高温で焼くと、 飴状に溶けて、冷え固まると石の様に固まります。炎を使って石に戻すという、 そんなイメージです。

有名な縄文土器は、粘土を器の形にして、900~1300度くらいの高温で焼いたもの。

そこに、装飾として色をつけるのが釉薬(ゆうやく)です。釉薬とはイメージ的には 「ガラス」です。同じ1200℃程度で溶けて、冷え固まるので、非常に都合がいい。 鉄そのものを溶かして表面につけたりすることも出来ます。そうすると、色彩だけ でなく、耐久性も高くなります。エジプトでは文明時代から、日本では鎌倉時代に この技術が獲得され、行われてきました。

②1土2焼き3細工
焼物の言葉に「1土2焼き3細工」という言葉があります。

最も大切なのが土。磁器を作りたかったら磁器土という粘土が必要です。 信楽焼を作りたければ、信楽の粘土が必要です。天然の状態で掘り出され る土から、色々と同じ成分になるように調合された粘土もあります。

粘土によって決まることは、焼き上がりの土色。もちろん、どういった 焼き方をするかという事もありますが、重要な要素になります。

他、成形の難易度、焼き上がりの堅さ、また釉薬を使う場合、粘土に含 まれる成分が色に影響を与えます。

現代は、粘土屋さんが作りやすい配合で増粘剤を入れたり、鉄分の除去 をして白くしたり、色々と調整された粘土を用いるのが一般的です。 安定的な品質のものを作り続けるためには、天然原料は邪魔な不安定要素。 最も大切な原料ですから、自分でよく把握することが大切なのですが、 自分で粘土を採掘する様な作家は、現代、ほとんど絶滅寸前の状態です。

また、粘土は天然資源ですので、採掘出来る場所は決まっていて、そして 使ってしまえば無くなります。現代は機械製造によって粘土の消費量は飛 躍的に増え、かつて貴重品であった器も、使い捨てられる時代です。器を粉 末にして再成形する技術も開発されていますが、まだまだ、「使い捨ての 時代」が続くことでしょう。他の時代から見れば贅沢なものですね。



話が長くなりました。2の「焼き」。現代は「ガス火」で焼きあげるのが 一般的です。これが最も安定して、安全に焼くことが出来る技術。近いも ので「灯油窯」もあり、戦前などは「重油窯」が多く使われていました。

昔はどうか、と言えば、一番古い形の縄文土器は、草などを被せて焼いた もの。炎の温度も低かったので、耐久性が低く、釉薬も使えない。 そこから20世紀までは薪の窯。木材を燃料にしたものです。近代革命が起 きるまで、ずっとこれが現役でした。

薪窯は、炎の当たるところは高温に、当たらない所は温度が低くなります。 窯の構造、風の強さ、気温、湿度、薪の種類などなど、様々な不安定条件を 抱え込むので、自然の偶然的な作用によって「名品」と呼ばれる作品群 が産まれました。再現不能といわれる焼物の風合いは薪窯によるものが多数です。

現代は「ガス窯」が9割以上。さらには安全な「電気窯」や、新しい 「マイクロウェーブ窯」なんていうものも。現代の窯は安定していて 失敗が少なく、粘土も無駄になりません。薪を割る重労働もありません。 短時間で焼成出来て、修行も職人集団も不要です。陶芸作家が生まれて きたのは、近代の窯のお陰と言ってもよい程です。

近代革命以降、採算性が著しく低い薪窯は打ち棄てられ、技術もほとんど 失われた状態です。薪窯による名品効果を求め、一部作家が好んで使うこ とで存命している状況です。費用は「殿様窯」と呼ばれ、労苦は薪割りか ら始まって、1週間も溶鉱炉のような状態の窯と徹夜対峙する重労働です から、「好む」というくらいで挑戦できるようなものではありません。

最後に「細工」の話。釉薬など装飾のことです。簡単にいえば「着物」の ことですね。軽くしたり、細くしたり。良い土を使って、良い焼き上がり になっていれば、瓦1枚でも、焼物として十分に魅力的なものになります。

なので、最後のひと押しが「細工」。

製作の技術面でいえば、「手ひねり」「タタラ作り」「ロクロ」「型押し」 「半自動式」そして量産工場の「全自動」という所でしょうか。

「手ひねり」は技術は簡単ですが、最も奥深いもの。桃山時代に作られた 日本産の名品は、ほとんどが手ひねりで作られています。ついで「ロクロ」。 茶碗など円状のものを量産するために生まれたもの。中華王朝や朝鮮などで 用いられ、技術の高さが要求されるもの。曲線美の追求などに奥深さがあり ます。

他、変わったものや方形のものに使う「タタラ作り」や「型押し」があり、 1台で毎日数千もの量産を行う「全自動」の機械があります。現代の人々が 手にする器は、基本的に全自動の機械製。百年前の頃であれば、全てが手 作りで、全てが薪窯製作という大変なものでしたが、今はとても簡単にな りました。現代の器は、色もカラフルで価格も安く、とてもお手頃になり ました。

視点を変えると、実は現代の陶芸というのは昔と全く別モノです。材料こそ 基本的には同じでありますけれど、簡単に器が作れるようになった反面、 古の名品を作り上げた技術は、失われたも同然というのが実際のところです。
以上、およその概要ではありますが、焼物の基礎的なお話でした。



陶工 吉村祐